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目黒川には鯰が [エッセイ]

 我が家から、電車で二十分ほど離れた場所に乳がん検診専門のクリニックがあります。失業時にネットで検索して見つけたのですが、検診を受ける前に就職も決まり、なんとなくそのままにしてしまいました。今年薄着になり始めた頃、胸のしこりに気づいてさえもなお、放置していたのです。理由については、我ながらどうかと思う、実に簡単な事情でして。数年前うつ病になった当時の職場で、乳がん検査は業務の一部だったのです。
 その頃は、乳がん関連の知識を一から頭に入れるため、結構な量の資料を手に入れ勉強しようとしていました。すでに、いろいろとうつの徴候は現れておりまして、特に新しい知識を頭に入れることが、ほんとうに困難になってしまい、読んでも読んでも資料の内容は上滑りして身につかず、時間だけがするする消えていく。実技の習得はお話にならないペースで、つまらないミスをなくすことがどうしても出来ない。新しい職場に移ってのことだったので、この状態はどうみてもおかしいと自分で気づくしかなかったわけなんですが、もともと、そうテキパキと仕事をこなせるタイプでもなく、全く分野の違う仕事をこんな齢で覚えるんだから、しかたないと、自分にうんざりしていたわけです。結局うつ病と診断され、その部署を離れることになり、集めた資料は次に移動してきた後輩にすべて引き渡してしまいました。その後退職もし、いろいろけりをつけた気でいたんですが、まーだ収まりがついていなかったわけです。自分の中では。いろいろ、しょうもないです。
 乳がんの年齢別発生率をみると、三十代後半から増加していき四十代後半にピークがきて七十代までそれほど減っていきません。わたしのような妊娠歴のない四十代前半女性なんて、危険のど真ん中です。女性の約二十人に一人が乳がん、四十を越えたら二年に一回の乳がん検診を、とは言われているものの、日本での乳がん検診受診率はまだまだ低い水準です。乳がんは外科医が診断・治療するのですが、自治体の検診では婦人科の医師が担当していたりして、そのあたりの取り組みも結構いい加減です。乳がんは身近な病気の割りに基本的な知識の普及は進んでないよなあ。最近やっと盛んに広報活動が行われておりますが。
 で、自覚症状がありますので保険適用となり、まずはマンモグラフィという乳房専門のレントゲン撮影装置で画像を撮りました。台に乗せた乳房を板で押してどんどん平たくしていくわけですが、これは三十代の女性には確かに辛そう。乳腺がしっかりしているうちは、この検査ではあまりよく診断は出来ません。左右上下とつぶしてそれぞれ二枚ずつ合計四枚の写真を撮ります。「痛いよー」と噂で聞いておりましたが、ほほほ。もうすっかりやわになったわたしの乳房は何の抵抗もせず、うすーくひらたく延びていきます。らっきー。ただ、しこりの位置がはずれのほうにあるので、これで写るか? ちょっと心配ではありました。お次は超音波検査。マンモグラフィと違って、モニターに画像がでますのでリアルタイムに観察できます。医師が自らプローブを握り、触診で確認したしこりの像をささっと出します。せんせい、すごい腕いいっすねえ。感心しながらモニターを眺めておりましたが、えーと。しこり乳腺からはみだしてませんかあああ? そしてあのキラキラは石灰化では。うひょー。「ああ、これはよくないですねえ」ばしっとモニター画像の印刷ボタンを押しながらせんせいはおっしゃったわけですが、ええ、ほんとよくないですよねえ。「隠してもしかたないんでね、確定ではありませんが、まず間違いなく癌ですよ」翌週病理検査の予約を入れますと、都合のいい日にちを訊ねられましたが、モニタの予定表はもう一杯で、いえ、そちらにお任せいたしますとしか実質言えない状態でした。ほんとに忙しいんだなあ。「もうこの画像見ただけでね、どの種類の乳がんかわかりますがね」ということは、典型像ということでは。これは、本屋によって超音波診断の本を立ち読みだなあ。写真は一枚しか印刷されていないので、わたしが持っては帰れない。ということは、この画像を覚えていかないとどうにもできません。あわわわ。乳がんの画像診断のポイントなんてすっかり忘れ、いえ、そもそも覚えることもしませんでしたよ。とりあえず腫瘍の中の石灰化と、だいたいの縦横比をチェックしてすごすごと引き下がったのでした。しかし、針生検か。現場に何度か立ち会ったことがあるのですが、ものごっつ痛そうに見えました。いえ、局所麻酔をするので痛みはないはずではありますが、でも局所麻酔するために結局針を刺すわけで、それも結構深々と。うーん、あんまりやりたくない検査だよなあ。乳がんと診断されたショックは、一週間後の病理検査への恐怖にすっかりかすみがちでした。そして、自分がまったく乳がんの知識を持っていないということに、つまりは、闘病の覚悟を決める準備がこれっぽっちもできていない状態だということ
に、まだまだ頭が回っていっていなかったのでした。

「プラスマイナス」114号掲載
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